夜、二階の自室にいた父が、何やらウィスキーの瓶のようなものを持って降りてきました。
「何? それ。どうしたの?」
「なんかよくわかんない。食品庫にあったから持っていって飲もうと思ったんだけど、美味しくなくて」
すると母が、「それ、コアントローじゃない?」と血相を変えました。
菓子用
「ヤダヤダ、コアントローだ! お菓子の香りづけのために使うリキュールだよ?」
「え、そうなの?」と、言いながらラベルを見つめる父。
母によると、現在は東京で菓子製造業に携わっている妹がまだうちにいた頃、菓子を作るために買ってあったものなのだそうです。
父はコアントローを棚に戻し、今度はワインを持って二階に戻っていきました。
あの酒好きの父でも飲めなかったコアントロー。「匂いがきつすぎて」と言っていましたが、香りづけのためのリキュールなんですから、そりゃそうですよね。